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リングに関する研究のリーダーの一人で、現在はとくにバレンツ海のプランクトン生態系のモデル化に従事しておられる。
Balchen教授からは、1990年から開始された海洋牧場の開発に関する研究プログラムPUSH (Programme for the Development and Encouragement of Sea Ranching)の一環として、ロブスターの牧場適地判定のために開発されたDAHABU (Date collection from ocean bottom substrate)というビデオによる海底基質探査装置(無人有索)について説明を受けた(図9)。また、同じく海洋牧場への工学的な技術の応用として別に検討を進めておられる電気フェンスや音響シグナル等による魚群行動制御の実験、超音波シグナルを利用した海洋牧場観測のためのROV (MOBATEL; Model Based TELeoperation of an underwater vehicle)や魚そのものを遠隔操作するためのROF (Remotely Operated Fish)の開発についても話をうかがった。ノルウェーでは人口が少ないことに加えて人件費が高いため、こうした自動制御システムによる省力化への関心が高い。
一方、Slagstad博士から、ノルウェー近海の代表的な動物プランクトンでニシンやマダラ等の餌生物として重要なカラヌス(Calanus finmarchicus)の個体群動態のモデルについて話をうかがった。カラヌスの季節的な鉛直移動と陸棚沿いを北上するノルウェー海流の相互作用が、カラヌスの水平的な移動や沿岸・陸棚海域における分布密度などを決定する重要な要因となっていることがシミュレーションの結果から示唆されている。このようなプランクトンの動態についてはまだフィールドの情報が非常に限られており、モデルの検証が今後の課題となっている。現在はさらに、気候変動がバレンツ海の生態系に及ぼす影響を評するためのモデルの開発に取り組んでおられる。基本的には、風に起因する北大西洋海流系の暖水のバレンツ海への流入量の変動とそれに伴う海氷の発達度合が、プランクトン生態系の変動を引き起こす重要な要因と考えられている。図10は植物プランクトンの春季増殖の空間的な推移を示す計算結果の一例であるが、暖水と接する海氷の縁辺部でまず増殖が活発化することが分かる。これは海氷から融け出す淡水により局所的に鉛直成層が発達し、沿岸・陸棚海域よりも早く増殖に好適な条件が整うためと説明されている。海氷がバレンツ海を広く覆う低温年には、光量が制限されるため基礎生産量は3割から5割低下する。さらにこの春季増殖を追いかける形で動物プランクトン(主にカラヌス属)が増加するが、その数量は北大西洋海流系水などによって南からバレンツ海に補給される越冬個体群の大きさに依存していることが分かってきている。これらの計算結果についてもフィールドでの検証が課題である。

 

 

 

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